おじ記

おじさんの日記です。

【書評】『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』

話題の『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』を読み終わったので、感想です。

「数多のn次受けが劣悪な環境に放り込まれて云々...」といった、恐らく多くの人が期待していたデスマーチ談はなかったですが、SI業界に属する身としてはグサグサ刺さる記載ばかりでした。読んで良かった。

特に、第2部『震災直後、「またか」の大規模障障害』の密度の濃さが凄いです。私自身、金融系システムの保守運用に従事しているため、ハッとさせられるフレーズばっかでした。

そんなわけで、第2部を中心に感想をだらだら書いていこうと思います。

とりあえず障害対応の記録が生々しい

第2部『震災直後、「またか」の大規模障障害』は、2011年のみずほ勘定系システム障害を題材としたセクションです。

当時の障害対応の記録と、それに対する分析から構成されています。

その障害対応の記録の部分なんですが、とにかく生々しいです。経緯が詳しく書かれており、「これ、自分にも同じようなことが起きたらなぁ」と考えると胃がキリキリしてきます。例えばこんな感じ。

  • システム担当者が誰も知らない設定値に引っかかって夜間バッチ処理が失敗
  • 失敗したバッチ処理は手動で再実行する必要がある(しかもバッチ処理は全3万件もある)
  • バッチ処理を手動で再実行していたため、実行ミスによりATMが全停止
  • 操作ミスでデータを誤削除し、その復旧に16時間費やす
  • システム運用担当者からシステム担当役員へのエスカレーションに17時間かかった

気の重くなる記述ばっかりです。しかも、これ、全部ではないのです。第8章のタイトルが「重なった三十の不手際」なのですが、本当にこんなノリのストーリーが30個あります。

それにしても、本当に胃がキリキリしてきます。どうしてこんなに胃に響くのか考えてみると、圧倒的なリアリティが原因なんですよね。全くの別世界の出来事ではなく、いつ自分に起こってもおかしくないような、そんなお話ばっかりです。

まず、この記録だけでも、障害対応のアンチパターン集としてとても優秀です。

運用対象のシステムに習熟することの大切さ

とまぁそんなわけで、上記の障害記録に対して様々な分析が実施されます。

本書全体の大きなテーマが「経営陣がITにコミットすることの重要性」なので、多くの不手際の原因がみずほ経営陣へ帰されていくわけですが、私はどうしても現場の担当者レベルのお話が気になります。

そんな中でも「これは痛いよな」「重要な観点だよな」と感じたのは、「ブラックボックスと化したシステムの全体を理解できる者が、誰も存在しなかった」という指摘です。 これは当然で、よく知りもしないシステムを運用することは難しいですし、まさか障害対応だなんて、という感じです。

ただ、みずほ勘定系システム担当者が不勉強・怠慢だったのかというと、そうではありません。むしろ、置かれていた状況に同情が止まりません。

システムに詳しくなるのは、どう考えても導入に携わった人間です。既に完成し動いているシステムの運用に途中参加して、キャッチアップするのはとても大変です。ましてや、その対象が稼働開始から23年が経過した巨大な勘定系システムだなんて...(想像するだけで無理ゲー)

「システムの式年遷宮」なんて話も、最近よく耳にします(以下の記事は最近ではないですが)。

it.impressbm.co.jp

システムそのものが老朽化していくのは当然のことですが、そのシステムを取り巻く「人」の観点からも、システム刷新は定期的に行わなければならないんだなぁと強く感じます。

そんなこんなで、自分が働く現場でも「有識者の不足」というのはよく言われていることだけに、非常に重い指摘でした(なんとかしなきゃなぁ)。

その他

第2部の感想ばかりになりましたが、他の部分も密度が濃くてとても良いです!

例えば、第1部『IT業界のサグラダファミリア、ついに完成す』は、昨年完了した(そして巷で話題であった)新勘定系開発プロジェクトの進め方について書かれたものですが、余りにもちゃんとしたプロジェクト管理に驚いてしまいました(出回っていた噂が酷すぎたので)。

まぁでも、ちゃんとリスケの判断しつつ、プロジェクト完了まで漕ぎ着けたわけで、実はきちんと統制が取れていたのでしょうか。 本書自体が割と経営層視点ですし、現場の本音はなかなか上がってこないですし、ある程度は割り引いて評価するべきですが、素直に「凄い」と感じました。社運懸かってるとこうなるんですね。

にしても、自分が普段関わっているプロジェクトがお粗末に見えてきてしまってちょっと悲しい...銀行って本当にお金持ちですよね。

本書の中で度々触れられている通り、このプロジェクトにより、他のメガバンクがバブル期前後に構築した勘定系システムを引きずっている中で、みずほだけが数十年レベルで新しい勘定系システムを手に入れました。

正直なところ、今までは「みずほのシステム」なんて聞くと良い印象はありませんでしたが、これからは大きく変わっていくのかもしれません。楽しみです。

そんなこんなで、おすすめです!ぜひぜひ読んでみてください。